さほらぼ　by　佐保建設　建築実例詳細　　風景をつくり 風景をまとう家

　風景になる家――。那岐山の南麓に立つこの家を訪れたとき、ふと、そんな言葉が頭をよぎった。完成して１年ほどの杉板張りの外壁には、まだ初々しさも残る。けれど土色のそとん壁の落ち着いた外観も、苔生す庭先でさわさわと枝葉を揺らす山採りの木々も、ずっと以前からそこにあったかのごとくすっかり周囲に溶け込んでいた。一方で、内から眺める風景はまぶしいほどにみずみずしい。山肌からの風に潤う田園は驚くほど生き生きとして、シラス壁の間に迫り来るような、それでいてどこまでも伸びやかに広がっていくような心地に思わず息をのむ。吹き抜けを介して２階から漏れ聞こえるキーボード音さえ、壮大な借景の傍らではさえずりのように快い。
　ふわりと肌をなでる春の風に誘われてふと視線を上げると、あぜ道に小さな影が二つ、ぴょこぴょこと楽しそうに揺れている。昼下がりの静寂が子どもたちの軽やかな歓声に満たされるまで、もう間もなく。ゆっくりと陰の色を変えはじめた風景の内側に、にぎやかな幸福が膨らんでいく。