さほらぼ　by　佐保建設　建築実例詳細　　光と影を操るインナーコートの家

　数多の家々が立ち並ぶ住宅地の一角にあるこの家には、正面から臨めば一見外からの視線を遮る外壁はない。それでもここに不思議と深い安らぎが漂うのは、内側に数々の美しき“仕掛け”が施されているからだ。といっても、特別変わった何かがあるわけではない。ＬＤＫを眺めてもそのデザインはむしろシンプルで、無駄な装いはひとつもない。けれど、白く滑らかな珪藻土壁は、深くそして浅い、幾重もの陰影を装う。リビングとＤＫの天井の間の高低差、大小さまざまな開口、そして照明の灯りが、静謐な空間に光と影を灯す。その巧みな設えが、外からの視線を逸れてすっぽりと囲われた心地よい占有感を際立たせ、深い安らぎをもたらしている。さらに見事なのは、ＬＤＫと和室、廊下にコの字で囲まれた中庭だ。ＬＤＫと和室をつなぐ段違いのウッドテラスにはいかにも涼しげな木陰が落ち、手水鉢に反射した陽光は視界を清々しく洗いだす。柔らかな緑は窓際に立つ人の気配にさわさわと音を立て、苔むした地面から立ち昇る湿った冷気は、陽光に火照った頬を心地よく潤してくれる。内と外、静と動が奔放に重なり合うこの空間は、きっと住人たちを心のままのひと時へと導いてくれるだろう。日々の営みは必ずしも安らかなことばかりではない。殊に子育てを担えば、腰を据える間もない一日もある。それでも我が子の声に目を上げた一瞬、水仕事の手を止めた一瞬にふと視界に映る柔らかな趣きは、深い呼吸と幸福をもたらしてくれるに違いない。