あなぶき・きなりの家 株式会社　建築実例詳細　　時雨庵　ー木組みが空間を繋ぐ家ー

　奇をてらうつもりは決してない。けれど、ありきたりではつまらない。望んだのは、日常になじむ心地よさの中に他にはない個性がにじむ家だ。　この家最大の特徴は、２階建でありながら中央に位置する座敷から中２階のフリースペースまでを一体的につなぐ、ワンルームさながらの造りにある。敷地内にはご主人の実家である“母屋”があり、あえて玄関を設ける必要はないとの考えから、ゆったりと広がる庭からテラス土間、室内まで、一枚のガラス扉のほかには明確な仕切りもない。一方、むき出しにした天井には幾本もの梁がのび、格子のような美しい木組みで華やかな彩りを放っている。カーテンを好まない家主の希望で、光はもっぱら北窓から採り、南側手の大窓は軒を深くして直射を遮る。それで、生活に必要な明るさは十分取り入れることができるのだ。ほどよく差し込む柔らかな光は、室内に美しい陰影を創り出し、吹き抜けに渡された木組みの美しさをよりいっそう際立たせる。光は量ではなく質と、思い知らされるような心地よさだ。夫婦２人暮らしにさほどの収納は必要なく、奥さまの雑貨は中２階のフリースペース、ご主人の趣味の自転車は階段下の“隠し部屋”にすっきり収まった。無駄なものは一切ない。さらに言えば、生活感もあまりない。けれど、それがかえって、住み手の感性を豊かに開き、何ものをも受けとめる大らかさを感じさせる。