株式会社 なんば建築工房　建築実例詳細　　京の町屋に倣う家

　普通の人の普通の暮らしの場。華美を誇るのではなく、生活に必要なものが合理的に備わり、町なかのさまざまな敷地条件の中で心地よく住めるよう知恵が凝らされている。昔ながらの「町屋」と呼ばれるそんな家が、Nさんの望んだ住まいのあり方だ。
　「町屋」の考え方はそのまま、なんば建築工房が長年貫いてきた姿勢につながる。キーワードで言えば、「機能美」―Nさんと設計者の正田さんとの思いは、語らずともすぐに一致した。例えばリビングの天井には長いケヤキの梁が渡されており、目を引きつける見事な意匠となっているが、これは決してデザインだけのためにあるのではなく、柱のない長いスパンを充分に支えるための補強に他ならない。吹き抜け上のキャットウォークもしかり。２階窓の開閉のため必要である以上に、外側のバルコニーを絶妙なバランスで支持する重要な構造材でもあるのだ。「必然的な存在だからこそ美しいと感じる、その感覚をわかりあえることがうれしかった」とNさんは言う。
　プランニングでは、Nさんは第一の要望として「玄関は広く、式台（上がり框より１段低い板の間）を設けたい」と話した。正田さんはこの言葉を、「きちんとした家をつくりたい」との意に解釈して受け止めたのだという。「ただ言葉どおりではなくて、お施主さんの表情や佇まいまで含めて見て、その背景にある大きな意図を汲み取るんです」。御影石の広いタタキに、見事な木目と艶をもつ式台や框、唐紙の襖を入れた低い飾り棚。これらのあつらえは、人を丁寧に迎え入れようとする心の表れであり、ひいては住む人の人となりを表す。そして、職人は現場で、徐々につくりあげられていく家の格式に合わせ、みずからの気持ちでさらに上質の素材を用いたり、手間のかかる造作を加えたりして、完成した住まいは要望以上に趣き深いものとなった。
　端正な機能美に満ちた町屋。そこには４人のお子さんがいて、気取りようのない日常がある。子どもたちが走り回ってあちこち傷がついても構わない。この家の下で、木のぬくもりを感じ、手仕事の跡にこもった気迫を感じながら暮らすうちに、大切ななにかが心にしっかりと育まれていくはずだ。