kitokito　建築実例詳細　　空が見守る家

「夜になればリビングから月も眺められるんです」―Sさんの家では、2階リビングの窓からデッキを通して、いつでも遮るもののない空が広がっている。
「kitokito」の設計士・大町さんは周囲に住宅が密集する旗竿地という特徴的な土地を生かしながら、家族が集う場所を空や木を感じる空間にしようと考え、2階にLDKを配置した。L字型のLDKに包まれるようにデッキをつくることで、対角線上にあるリビングとダイニング、そして空が目に入る。2階のどこにいても窓を見上げれば同じ風景が広がり、家族はさり気なくつながりを感じることができる。
　そしてこの家を象徴するように成長していくのが、1階の玄関からデッキを通り、空に伸びるアオダモの木だ。大町さんが庭師と共につくった玄関部分は庭と長く伸びた土間をガラス張りにすることで明確な仕切りをつけず、閉塞的になりがちな現代の玄関とは一線を画す開放感と落ち着きに、思わず感嘆のため息が漏れる。
　風景を楽しむために余計なものをそぎ落としたような美しい空間。しかし、そこには暮らす人が心地良く、そしていつでも帰りたくなるような愉しみが随所に隠れている。2階の奥にはトイレやバスルームを配置。屋根を設けたデッキの一部で洗濯物を干すことができ、デッキに面したバスルームから空を仰ぐことができる。そして時には子どもがリビングからデッキ、洗面室からダイニングへと自由に駆け回る。奥さまはキッチンに立てばそんな2階の様子をぐるっと見渡すことができる。そこには自然な会話や笑顔が溢れている。
　大町さんがこの家を考えるときに願ったのは「Sさんご家族がいつも幸せであるように」―。このシンプルで深い願いから繊細で美しく、そして愉しい空間が生み出された。Sさん家族が笑い合い、喜び合うことで、この家族にしか出せない味わいをつくっていく。家が作り手から離れ、Sさんが10年・20年と暮らし、どのような色に染めていくか大町さんも楽しみにしているそうだ。